"お金の『基礎演習』"~20代FPが大阪から発信!20代のお金の教養講座~

大阪のファイナンシャルプランナー(AFP)、うえまっつんによるブログ。主に20代に向けた『お金の教養講座』『関西発!賢く暮らす知恵袋』を展開する傍ら、日々の暮らしを書いている。

「傷病手当金」について調べていたら前の会社への怒りが再燃した件


お金の『基礎演習』

「十分に対策をとっていたけど、新型コロナウイルス感染症に感染―ホテルでの療養を余儀なくされた。」

このご時世ですから、予期せぬアクシデントで仕事を長期間休まなければならないこともあるでしょう。有給休暇を使うにも限りがあります。

そんなとき、あなたに収入の一部を補填してくれるのが、健康保険の「傷病手当金ですが・・・

傷病手当金とは

 

傷病手当金は、業務外の怪我や病気で会社を長期間休み、その分の給与が支払われない場合に、その給与の一部(3分の2)を給付という形で受け取ることのできる制度です。健康保険(協会けんぽ、健保組合)を対象とする制度。業務上の怪我や病気場合は、労災保険の管轄となり、別の補償がとられます。

具体的には、病気やけがにより仕事を連続3日間休んだ場合(この3日間は有給でもよい)、4日目から支給されます。

→健康保険は会社勤めの方など、「給与」という形で収入を得ている人が対象となります。一方で、自営業者などが加入する国民健康保険には『傷病手当金』は原則ありません。

傷病手当金 国保の加入者にも

先日(5/8)の朝日新聞朝刊に、こんな見出しの記事が掲載されていました。
傷病手当金 国保の加入者にも」

記事によると、この対応は、国民健康保険の適用になっている、短時間労働者ら給料をもらっている人を対象とする特例措置で、自営業者自身は対象にならない、とのこと。(いわゆるフリーランスの方など、事業者向けの支援策は別途とられています)

一般に、『中小企業は協会けんぽ、大企業は健保組合、個人事業主国民健康保険』という前提で考えられがちですが、そうではない人もいるんだ、ということをここで頭に入れておいてください。

解説:健康保険適用のしくみ

「給与をもらっているけど国保に加入している」人がいるのはなぜか、ここから解説していきます。

日本は国民皆保険制度となっているので、健康保険(協会・組合)【以下、健康保険】に加入する対象であればそちらに加入し、それ以外の方は国民健康保険【以下、国保】に加入します。つまり、前者の仕組みを確認すれば、自ずと見えてきます。

社会保険制度の仕組みを考えるとき、2段階の考え方をします。まず、「会社・事業主」が対象になるか。次に、「そこに働く人」が対象になるか、です。

1.「会社・事業主」適用事業所のルール

健康保険法第3条では、

国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの。

②個人経営の事業所で、常時5人以上の従業員を使用する法定業種に該当するもの

 と規定されています。

 つまり、公務員と会社員は、「そこに働く人」ルールが適用になれば、健康保険の対象になります。

個人経営の事業所で雇われている場合は、少々複雑です。
「従業員5人以上」は言わずもがなです。

「法定業種」とは、

ア 物の製造、加工、選別、包装、修理または解体の事業

イ 土木、建築の事業

ウ 社会福祉事業、更生保護事業

などが対象になっています。農林水産業や、いわゆるサービス業は含まれていません

法定業種以外だったり、従業員が4人以下の場合は、「任意適用」となり、健康保険に入らなくてもよいのです。

ここで、「給与をもらっているけど国保加入者」という余地が出てきます。

2.「そこで働く人」ルール 被保険者の要件

 「会社や事業主」が条件を満たしていても、働く人それぞれが条件を満たさなければ、健康保険には入ることができません。

こちらは少々複雑なので、すべては説明しません。
ざっくりと説明すると、「短期間(1~2ヶ月)限定で雇われている従業員」「フルタイムの従業員より短時間で働く従業員」が、「被保険者とならない」と定められています。

つまり、パートタイムなどいわゆる非正規雇用の従業員が、健康保険の対象から外れてしまう、そういった仕組みになっています。

そのような短時間勤務の従業員でも健康保険の加入資格を得られるような規定もありますが、規模の大きな(令和2年5月時点では、従業員500名以上)企業でないとその規定は適用されません。

前述の規定より健康保険への加入資格を得られない従業員は、市町村の国民健康保険に加入することになります。このことにより、多くの非正規雇用の方が、かりにコロナウイルスに感染して会社を休んだ場合、給与が保証されない可能性をもっているということです。

そのため、国は国民健康保険を運営する市町村などに「傷病手当金の支給を行う」ように求めているのです。

 例外:組合国保という存在

ここまでは、健康保険の基礎と時事問題(国保でも傷病手当金を)の解説。
ここからが本題。

国民健康保険には、市町村が運営するものに加え、国民健康保険組合という主体が運営するものがあります。具体的には税理士や医師など、業種別の組合があげられます。

税理士や医師などは、もともと個人事業主が多い業種です。そのため市町村の国民健康保険に加入しなければならなくなります。市町村の国民健康保険では、保険料が収入によって決まるので、高い保険料を納める必要があるなど、デメリットがあります。

一方で組合国保は、保険料が一定であることが多いので、収入の多い場合にはメリットといえます。また、組合によっては給付が手厚いといったメリットもあるそうです。

参考)組合国保って普通の国保とどう違う!? [仕事・給与] All About

法の抜け穴

筆者が新卒で就職したのが、税理士事務所(税理士法人)でした。税理士法人というのは、平成13年に登場した新しい種類の法人で、税理士業務を法人として行え、支店を開くことができるといった制度です。

法人なので、先の説明を参考にすれば、「会社・事業主」ルールより、健康保険の適用になる…かと思いきや、なんと、「近畿税理士国民健康保険」の適用事業所でした

月曜から金曜日、8:50~18:00の勤務、時間外労働はごく普通(勤怠の計算が給与明細にも書かれていない!形ばかりの旧式タイムカード)、土曜当番なる制度…

どう考えてもフルタイム労働の筆者、それでも国保の適用です。

当然傷病手当金制度もなく、「扶養」概念がないので将来家族が増えれば、保険料負担が増えます。

ここまでの説明をしっかり読んでいたあなたなら、この不思議さにお気づきいただけるでしょうか。

学生時代のまだFPの勉強をする前の若かった私は、こんな環境へも飛び込んで入ってしまったのです…

私はこれで会社を辞めました

タイムカードの集計をしない労働環境、経理事務 兼 経営コンサル 兼 保険外交員というめちゃくちゃハードな仕事、国保なので倒れても傷病手当金が受けられない…

FPの勉強をして知恵をつけてしまった私は、退職という道を選んだのです。

(この経緯にもいろいろあるのですが、現職に支障が出そうなので控えます)

 

理由:なぜこんなことがまかり通るのか

ずばり、「既得権の保護」です。

法人化する前に、事業主である税理士が税理士国保の加入権を取得していた場合、法人になっても国保の権利を継続することができる規定になっています。(一方、厚生年金は法人になった時点で強制適用)

近畿税理士国民健康保険のHPにははっきり書かれています。

税理士法人は、協会けんぽ・厚生年金の強制適用となる事業所です。

原則として、近畿税理士国民健康保険組合(以下、税理士国保)に加入することは出来ません。

ただし例外として、設立日より前から税理士国保に加入されている個人事業所の組合員・家族で当組合の被保険者である方については、既得権を保護するということで継続して加入することができます

 税理士法人を設立|近畿税理士国民健康保険組合

 

これ、会社を辞めておらず、このコロナ禍を迎えて、もし本当に感染してしまい、2週間ホテル療養となれば…有給を使い果たすか、給与ゼロで療養するしかない状況でした。

しかも、民間保険では、これほど手厚い就業不能保障は受けられません(筆者の知る限り)。筆者が今加入している保険でも、「重度障害」と呼ばれる状況にならなければ、就業不能の保障を受けることはできません。

全国の組合国保加入の社長さん、従業員を本当に思うなら、協会けんぽに移行しましょう、真面目な話。

 

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